華やかお寿司 Vol1 [DINING EXPRESS誌より]
銀色に輝く酢飯と旬の魚や野菜が織りなすハーモニー。
その美味しさは時を越え、国を越え、食べる人の心を掴んで離さない。
華やかなお寿司を前に心も会話も躍り出す!
冷凍技術や交通が発達していなかった昔、すしは生ものでありながら、長距離の輸送に重宝される食べ物でした。運ぶ道中に熟成されるという利点があったからです。時代とともにすしは「貯蔵食・保存食」から、日常的に好んで食べられる食ベ物に変わっていきました。
■鮮魚の保存が、すしの起源
原初のすしは、東南アジアが発祥。雨季に捕れる魚を貯蔵しておくために考えられたもので、魚肉を塩で味付けし、ご飯の中に漬け込む方法で作られました。このすしは漬け物のような感覚で「魚肉だけ」を食べます。こうした食べ方は現在も残っており、その形態をナレズシ(発酵ずし)と言います(ナレとは「馴れ」すなわち発酵・熟成のこと)。 では、日本にすしはいつ頃やってきて定着したのでしょうか?
■すしは納税代がわりだった
すしは中国を経て日本に伝わりました。現在分かっている最も古いすしの文献は「大宝令」(702年)と言われています。太古の昔、すしは納税のために用いられたようです。平安朝時代に公布された法令の「延喜式」には、諸国からのすしの貢納が記されています。日本のすしは2000年以上の歴史を持っていることになります。
日本の寿司の原点で、今日現存するものとしては、琵琶湖周辺の人たちが今でも家庭で作っている「鮒ずし」があります。鮒ずしは、ニブロブナと塩とご飯のみを乳酸菌発酵させてつくり、つけ込んだすし飯は食べずに魚だけを食べる最も古い形式のすしです。
■発酵させないすしへ 室町時代になると、米食が庶民階級にも広がってきて、すしは「魚肉と一緒にごはんも」食べるものになります。ご飯を捨ててしまう食べ方はもったいないという感覚があったのでしょう。ご飯は発酵によって溶けてしまうため、発酵を途中で切り上げるようになりました。そのうちに、発酵期間を短くする工夫として、糀(こうじ)や酒、酒粕を混ぜるようになりました。そして江戸初期には、直接「酢」を使うようになりました。発酵させずに「酸味だけつける」という考え方になったのです。江戸半ばを過ぎると「姿ずし」と「箱ずし」しかなかったすしの形態が、バリエーション豊かになっていきました。発想を変えたり、食べやすさ・作りやすさの点から「巻きずし」「いなり」「ちらしずし」なども生まれました。1800年頃には現代と同種類のすしが出そろいます。
■江戸っ子を夢中にさせた、与兵衛の握りずし 握りずしを考案したのは、江戸ですし商を営んでいた華屋与兵衛だと言われています。正確には、握るすしの形は与兵衛以前にもありましたが、まだ「握ったご飯の上に魚を張りつけ、箱の中に詰めて押す」という箱ずしにすぎませんでした。与兵衛は、押しつけることで魚の脂分が抜けてしまうのが気に入らず、「握り早漬け」を考えました。これが、現代の握りずしの形となります。与兵衛の店は大繁盛し、「こみあひて 待ちくたびれる 与兵衛ずし 客ももろ手を握りたりけり」と歌われるほどになりました。当時は魚の鮮度を保つため、塩や酢で締めたり、ゆでたりという下ごしらえが必要でした。刺身をそのまま握るようになったのはさらに時代が進み、冷
蔵庫が普及するようになってからになります。
■寿司の提供の変遷 江戸後期に、江戸前寿司が誕生し、日本橋・深川で屋台寿司が流行しました。明治時代に屋台は立ち食いから腰掛け食いに変化。大正に、電気冷蔵庫が登場してから生魚を握るようになりました。1923年の関東大震災を機に、寿司職人が地方に移り、江戸前寿司が全国に広がりました。昭和に入り戦後、手巻き寿司が誕生。江戸前寿司や土産寿司も広がっていきますが、まだまだ寿司は高級品でした。1970年代には、テイクアウト寿司が一世を風靡し、寿司は庶民のもとへ戻ってきました。80年以降スーパーや宅配でも扱われ、回転寿司も盛況で、様々な業態が乱立。2000年にはカフェ寿司などの新しい寿司も台頭しています。 寿司を提供する業態は、時代とともに増加、細分化し続けていると言えるでしょう。
出典「名古屋経済大学短期第学部助教授 日比野光敏氏」
協力:ミツカンナカノス
「ナレ」から「握り」へ。千数百年の歴史のなかで生み出されてきたさまざまな形態は、いまも各地に残っている。祭礼や季節の魚菜と結びついた古いすし、手軽さを工夫した新しいすし。日本には北から南まで、材料、つくりかたともユニークなものがなんと多いことかと、改めて驚かされる。それらを通して、変化に富んだすしの歴史をつづる。
Posted at 06時28分
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