東京都雷門近く うなぎ色川 絶品うなぎと名物大将
創業、文久元年(1861年)のうなぎの老舗、浅草にあるうなぎの色川さんに行きました。文久元年というのが、いつかというと桜田門外の変があった翌年らしい。おそろしく昔からうなぎを出している店に、おそろしくいかした大将がいる。実は、この店2度目の来訪。一度目は、3年前で、お座敷でいただきました。江戸前のふわっふわのうなぎのおいしさに感動。肝焼きから始まって、最後のうな重にいたるころには、おなかいっぱいになり「おいしかったです」と、声をかけて店を出ようとしたら「あたりめえだろう。命かけてやってんだから」といわれたのを、ずっと覚えていた。今回は、かぶりつきのカウンターで一杯。うなぎの旨さも天下一品だが、大将のおしゃべりも天下一品であった。
休みなく手と体と口を動かす大将である。炭火で丁寧にうなぎをあぶり、つぎ足しつぎ足しのタレにぽちゃんとつけて、さらに香ばしく焼き上げる。その間、UFOの話や武夫原の話、宮本武蔵の話や、ピタゴラス定理の話、ドスで刺された話など、とにかく縦横無尽に話が飛びまくり、しかし大将の中では、話の筋が一本つながっているようだ。「キリストとマホメッドとお釈迦様を一緒に見た」という話が、つながるわけがないのだが、大将の中ではつながるのである。
そのべらんめえ口調は途切れることがないのだが、途切れたとするならば、それは私が肝串にかぶりついていて、旨さのあまり脳内アドレナリンを放出し、大将の話が上の空になった一瞬のことだけのことである。楽しい時間は、あっという間に過ぎる。あっという間に過ぎるということは、客は一瞬にして年をとってしまうということでもあるが、20年来通っている知人によると、カウンターの向こう側の大将はまったく年をとらない。これまた不思議な話である。大将は、40年に一度という頻度でしか美女に会わないそうである。たとえ美女が存在したとしても、その美女が年若くして、この色川に足を運び、大将の目の前のカウンター席に座る確率は非常に低い。わたしはカウンターに座り、「ああ、大将が美女に出会うチャンスを奪ってしまった」と少し後悔したけれど、次もこのカウンターに座りたいと思った。<YA>
うなぎ色川
日曜・祝日・不定休
東京都台東区雷門2-6-11
03-3844-1187